｢暴力と権力の違い」 『国家とは何か』萱野稔人 より

実際の国家において暴力と権力がいかに絡み合っていようと、
理論･概念的レベルでは、暴力と権力は区別されなくてはならない。

暴力と権力を概念的に区別することによって、
はじめて両者の結びつきを問題にすることが可能になる。

銃身を突きつけられて「仕方なく」服従するとき、
そこにあるのは「同意」である。

強制されたものであるのに、なぜそれを「同意」といえるのか。

それは、「暴力に晒されるくらいなら服従した方がいい」という「選好」が働いているからだ。

暴力による脅しは、相手が「それをするくらいなら暴力に対峙する方がマシだ」と、
思わない範囲内のことしか命令できない。

暴力が服従を得るためには、服従を動機づける選好関係や力関係を組み立てることが必要だ。
そこに、暴力と権力が結びつく根拠がある。